2024年に入り、34年ぶりの160円台という円安を叩き出しました。
その結果をうけて日本では4月末から5月にかけて日銀により為替介入を実施し、ドル円の為替レートに大きな影響を与えています。
そこで、この記事では為替介入について、目的やメリット・デメリットを具体的に解説します。
為替介入(外国為替市場介入)とは?
為替介入(正式名称=外国為替平衡操作)とは、政府や中央銀行が為替相場に影響を与えるため、外国為替相場で通貨の価値を調整(売買)を行うことです。
実際に、事業者を例に考えてみましょう。
例えば、毎月1万ドルで海外から商品を仕入れているときの仕入れコストは、以下のようになります。
1ドルが100円なら100万円で仕入れできますが、円安に傾き1ドル150円になると150万円と1.5倍のコストがかかります。
反対に、毎月1万ドルの商品を海外で売ったときの売上は、以下の通りです。
1ドル150円の場合は150万円の売上となりますが、1ドル100円と円高になると100万円の利益で50万円も減ってしまいます。
事業者はもちろん、商品の価格高騰など家計にも悪影響があることもあり、為替レートの急変は大ダメージになることが知られています。
このような急速な円高や円安はどちらに傾いても経済に悪影響を与えるため、経済が混乱しないために行われているのが為替介入です。
実際に日本政府が円安を防ぎたい場合、ドルを売って円を買い円の需要を増やすことで円高に誘導し、反対に円高を抑えたい場合は、円を売ってドルを買い円安にします。
直近でも歴史的な円安が続いたことから、2024年4月~5月にかけて9兆円規模の為替介入が実施されました。
為替介入は短期間での効果が見込まれるものの、長期的な通貨の動きを完全に制御するのは難しいため市場と調和した政策が必要です。
為替介入の種類
為替介入には、以下の3つの種類があります。
一般的には単独介入が多いですが、相場変動が大幅で急速な場合や、経済に与える影響が大きい場合は協調介入が実施されることもあります。
また、口先介入は実際に通貨の売買は行いませんが、市場参加者を心理的に操作するため、政府高官が為替相場について発言することを指します。
ドル円などの売り買いはないものの、結果として為替変動が落ち着くこともあるのです。
為替介入の原資
為替介入の原資は、政府や中央銀行が外国為替市場で通貨の売買を行うために使われます。
為替介入には「円高」や「円安」を調整するために円や外貨(主に米ドル)が必要です。
例えば、日本が円高を抑えたい場合は円を売って米ドルを買います。
このとき、政府や日本銀行は保有している米ドルを使って市場で円を売り、ドルを買い増します。
逆に、円安を抑えたい場合は、政府が持っている円を使ってドルを売り円を買い戻すことになります。
では、こうした取引に使う原資はどこから来るかというと、主に2つの方法があります。
1つ目は、日本政府や日本銀行が過去に貿易や投資を通じて蓄積してきた外貨準備金です。
外貨準備とは、国が持っている外貨の貯金のようなもので日本の場合はとくに米ドルが多く保有されています。
2つ目は、「為替平衡操作資金」という特別な国の資金です。
この資金は、外国為替市場で介入を行うために特別に用意されたもので必要に応じて国債(政府が発行する借金の一種)を発行して調達します。
これにより、政府は市場に必要な資金を確保し、円の価値を調整することができます。
つまり、為替介入の原資は、国が持っている外貨準備や特別な資金であり、これを使って市場に介入し、円の価値をコントロールしているということです。
為替介入の過去の実績
実際に、2010年以降に行われた為替介入の実績を見てみましょう。
金額(億円) | 売買通貨 | |
2010年 | 21,249 | 米ドル買い・日本円売り |
2011年 | 142,970 | 米ドル買い・日本円売り |
2022年 | 91,880 | 米ドル買い・日本円売り |
2024年 | 97,885 | 米ドル買い・日本円売り |
為替介入が起こるタイミングでは、経済危機や災害被害など、世界的なトラブルが起きているケースがほとんどです。
例えば、2011年は日本では東日本大震災が起こり、日本経済が大きなダメージを受けました。
本来は輸出企業の影響から円安が予想されましたが、実際は保険会社による保険金支払いによる円の買い集めや、海外投資家がリスク回避のために日本株や債権を売却することで円に換える動きを行いました。
結果として、急速に円高が進んだため、日銀は覆面介入することで円高を抑える動きを見せています。
また、直近では2024年にも為替介入が実施されています。
世界的にコロナ禍が収束したこともあり、経済活動が正常化に向かうことで物価が上昇しました。
アメリカは物価上昇に対する対策としてゼロ金利対策を解除しましたが、日銀は緩和政策を継続していたこともあり円安が進んだのです。
そのため、4月~5月にかけて日銀は約6兆円規模の為替介入を実施しました。
為替介入するメリット
為替介入の最も大きなメリットは、急激な通貨変動を抑えることです。
例えば、円が急激に高騰すると日本の輸出企業は海外での価格競争力が低下し、売り上げに悪影響が起こります。
逆に円安が進むと輸入品の価格が上昇し、国内の物価が上がって消費者の生活を圧迫します。
日本はエネルギーや食料の自給率が低く、多くの資源を輸入に頼っています。
そのため、極端に円安が進むと石油の高騰や食料品の高騰が起こるというわけです。
為替介入は政府や中央銀行がこれらの急激な変動を抑制することで、経済への影響を緩和し、安定した経済活動を維持する手段として有効なのです。
為替介入のデメリット
為替介入は効果的に運用することで円安・円高が緩和できますが、一方でデメリットもあります。
実施できる規模や回数は制限がある
為替介入をするためには、円やドルなどの大量の資金が必要となります。
円安なら外貨、円高なら政府短期証券発行により円を調達しますが、実施できる規模や回数には限りがあるのです。
そのため、円安や円高になったからといって簡単に実施すればいいというわけではありません。
単独介入では効果が長続きしないこともあるため、実施するタイミングや金額を見計らう必要があります。
他国への配慮が必要
為替介入を行うときには、他国への配慮も必要となります。
日本においては、ドルに対して為替介入を行って調整するため、とくにアメリカとの関係は重要です。
日米関係を悪化させないためにも、アメリカの理解を得た上で為替介入は行われています。
まとめ
今回は為替介入について、特徴やメリット・デメリットを解説しました。
為替介入は過度な円安・円高を抑制するために行われ、2024年にも大規模な円安による処置として、日銀によって為替介入が実施されています。
ただし、回数や規模に制限があり、効果にも限りがあるのでむやみやたらに行えるわけではありません。
実施状況が気になる人は、財務省の「外国為替平衡操作実施状況」をチェックしてみてください。